森さん追悼文
- 関山和秀、菅原潤一(spiber)
- 2021年7月28日
- 読了時間: 3分
2004年秋、当時SFCの学部生だった私たちは、SFC Entrepreneur Awardというビジネスコンペで「クモの糸を人工合成して事業化する」という内容で発表していました。指導教授にそそのかされて威勢よく参加してみたものの、参加者のほとんどは既に法人化して売上が立っている本格的なベンチャー企業。上場準備に入っている会社もありました。法人化どころか、そもそも研究すらはじめていなかった私たちは、「これは完全に場違いだった」と多少やけになりながらも、せめて熱意だけは伝えて帰ろうと必死にポスターの前でプロジェクトの説明を続けました。そこに、真剣に私たちのプレゼンを聞いてくださる一人の紳士。
「これは国家プロジェクトとして取り組むような壮大なテーマだね」
それが森さんとの出会いでした。結果的に、SFCの諸先輩方の「教育的配慮」により特別賞をいただき、後戻りができなくなった私たちは、山形県鶴岡市にある慶應義塾大学先端生命科学研究所で研究に没頭しました。それから約2年後の2007年、顕微鏡でようやく見えるくらいの糸くずのようなクモ糸を人工合成することに成功し、起業を決意するも、事業計画の作り方、資金の集め方等々、右も左も分からない私たちの相談に、森さんはいつも快く応じてくださり、幾度となく打ち合わせのお時間をいただきました。森さんから見れば本当に穴だらけで、とても事業計画と言えるような代物ではなかったかもしれませんが、私たちの主体性を尊重し、いつも笑顔で、優しく穏やかにご指導くださったのを覚えています。そして会社を起業した際には、「鶴岡の食と温泉文化(と先端バイオ)を学ぶ」と題して真っ先に鶴岡においでくださり、私たちを激励してくださいました。
そうして誕生したSpiber株式会社も、今年で設立15年目を迎えます。私たちの研究開発は、森さんとお会いしてから約10年後の2014年、革新的研究開発推進プログラムという内閣府主導の国家プロジェクトに採択され、2019年には、その成果を活用した構造タンパク質「Brewed Protein™」素材が、アウトドアブランドであるTHE NORTH FACEの製品に初めて採用されました。主原料を石油に依存せず、かつ、高い環境分解性を持つ我々の「Brewed Protein™」素材は、持続可能な社会の実現を目指す多くのメーカーやデザイナーから注目をいただき、世界中から多くの引き合いをいただけるようになりました。今年末には、タイにて建設を進めてきた初の量産工場が稼働する予定であり、並行して米国の穀物メジャーとも提携することでさらなる生産規模拡大の目処もつき、これから数年かけて数千トン規模まで生産を拡大していく計画です。
これから森さんが繋いでくださった糸で、世界の平和を紡いでまいります。あの時私たちの背中を押してくださった森さんのことを忘れません。どうかやすらかにお眠り下さい。さようなら。
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